大阪へ異動になったゆる子が​大阪ゆる個サルへ参加するお話です

だったのですがゆる子がフットサルを通じて成長する物語になっちゃいました。

それどころか文字中心になってます^^;

登場人物は実際の参加者の方々とは関係ありません!

張り巡らされる伏線、駆け引きの群像劇(嘘)をお楽しみください。

 

第1話:「退屈」

「退屈」だと明確に感じたわけではない。

まだ一歩か、二歩手前。恐らく落ち葉のように散らばった感情が原子のように手を繋ぐと分かり易く退屈という感情になる。ただ充実とは何かが違う。

ゆる子は仕事から岐路に就く車を運転しながらふとそんなことを感じた。決して高くない身長にフィットした軽自動車が畦道を掻き分けていく。横目に見えるのは街頭に照らされた夜桜。仕事にやりがいが無いわけではない。同僚と共に新店舗の立ち上げと初月の売上目標達成という大きなプロジェクトを成功させた。社内の批判も沢山あったし人に動いてもらうのも苦労した。だからこそ達成の瞬間は無機質な数字が「よくがんばったね!」と光っているように見え、涙も流した。一緒にがんばったえりりんとのハイタッチは私の歴史の1ページを刻んだ。

 

だからこそまたあの成功体験を求めているのかもしれない。ゆる子はそう自己分析した。あの時「すごい鼻水が出てるよ」とえりりんから冷静につっこみを頂いたがそれも時に鬼のような彼女の目に涙が溢れていたからだと思う。

あの瞬間こそ社会人になって都市伝説のようになってしまった青春や生きている実感というものだ。私たちは欲深い。沢山の命を犠牲にし日々生かしてもらっているのに生きているだけでは満足できない。

「退屈なんて贅沢だな」

 

一人暮らしのマンションに到着しサイドブレーキを左足でぐっと踏みながらそう呟いた。青春という単語は現代ではとてもダサいかもしれない。高校球児のように泥臭いからこそ、そこにはカーネギーもびっくりの心をグッと動かす何かを感じる。「変化を恐れてはだめだ」と自分の内側でかすかに誰かが叫んでいた。​

翌日、変化はあちら側からやって来た。変化の名前は大阪への異動だった。覚悟をしていたため驚きは20%といったところだろうか。勤続5年で初めての異動。しかも大阪へはあまり行ったことがない。お昼休憩にやっとえりりんに会えた。

ゆる子「えりりん!」

えりりん「ゆる子!」

この一往復のやり取りと表情だけで、話したかったことの半分以上に済というハンコが押された。えりりんは大阪へ異動になったことを知っていた。そしてえりりんも夏頃には大阪とのこと。

えりりん「少しの間、寂しくなるね」

そう、寂しい。寂しいだけではなく正直えりりんの能力も必要だった。感覚的な私と実証的なコンビの私たちは2人で組んで戦うほど力を発揮した。何よりえりりんは根回しが上手だった。会話の中で相手のことを知り、味方をつくっていく。長身で長い髪、スタイルも良い。えりりんは特に年配の男性に人気があった。時に「やっちゃいましょう!」といったラフなクロージングもえりりんらしさが凝縮されたものだった。働きマンとして仕事をこなす姿を鬼と形容する人もいた。お弁当を食べながら唯一の同期のえりりんに寂しさから来る愚痴を一通りこぼした後、お互いのデスクへ戻った。

えりりんは「大阪に住んでたことあるから友達紹介してあげる」と言っていた。「大阪かぁ」と呟き午後からもまた睨めっこするパソコンと目を合わせた。

---大阪での生活を始め2週間が経った頃、えりりんからメールが届いた。

タイトルには「友達を紹介すると言った件」と書いてあった。律儀な。ドライヤーで髪を乾かした後、ベッドに横たわりメールを開いた。

本文には「ゆる子、フットサルしよ!」と書いてあった。添付されているファイルには楽しそうなフットサルチームの集合写真があった。視覚的にも攻めてくるところが、えりりんらしく少しおかしくなり笑ってしまった。笑顔で映る男女20名ほど。皆赤を基調としたユニフォームを揃えている。写真中央にはヘアゴムで髪をとめた少し若いえりりんが映っていた。胸にチーム名と思われるものがローマ字で書いてあった。「Thousand Happy Knights(サウザンドハッピーナイツ)」(お腹にある)背番号は39。眺めている内に次のメールが届き何度かやり取りをした。要するに、

1.えりりんは大阪時代、フットサルで交友を広げた
2.運動不足も解消できるしストレスも発散できて

 サッカーのようだけど奥が深いフットサルを一度やってみてほしい

3.サウザンドハッピーナイツというチーム名は尊敬する人からとったものらしい

4.そのチームが生まれたのも大阪ゆる個サルという団体で出会ったメンバー

5.ゆる子は絶対ハマる(大きな太字での予言)

ということだった。個サルというのは個人つまり一人でも参加できるフットサルの略。集まったメンバーでフットサルするというものでゆる子も聞いたことはあった。これまで運動をちゃんとしてきたわけではないしルールも知らない。なにより運動着も無かった。けれどどこか毎日にアクセントをつける意味も込めてえりりんと話し、ゆる子は次の日曜日に初めてのフットサルに挑戦してみることにした。

第2話:「ウサギ」

​日曜日。今回個サルの予約はえりりんが代わりに行ってくれた。そして友人に声をかけたところ、はっしーさんとえりりんの幼馴染のタクヤさんという男性2名が参加できると返信が来たとのこと。「大阪ゆる個サルの代表にも伝えておくのでその2人に色々教えてもらってー!」とメールが届いた。それとタクヤさんがもしえりりんの昔話を始めたら、タクヤさんに見せてという画像も届いた。

服装は学生時代の体操着しか無かった。パジャマ代わりに律儀に持っている、胸にゆる子と書いた恥ずかしい代物だ。「体操着で良いし靴は専用のものなら施設の受付で借りれるよ」と聞き、今回だけの参加となるかもしれないしと、ゆる子は体操着を鞄に詰めて行くことにした。

大阪の様々な施設でコートをレンタルし個サルとして人を集めているのが大阪ゆる個サルらしい。日曜日は東淀川の上新庄駅にあるフットサルポコタという施設での開催。住んでいる最寄り駅からは環状線で1駅、梅田駅から大阪メトロ御堂筋線で西中島南方駅まで行き、阪急に乗り換える。アプリで調べると28分で到着するようだ。思ったより近い。電車に乗ったゆる子は西中島南方駅で乗り換える時、頭にウサギの耳をつけている肩幅のしっかりとした男性を見かけた。そのキャラクターは千葉県の遊園地のキャラクターなのになと不思議に思ったためあまり見ないようにした。

上新庄駅に到着すると、えりりんに教わった通り北口の改札から出た。先ほど見かけたウサギの耳の男性が前を歩いているのに気づいた。駅を出て左折し北へ真っ直ぐ。左手に見えるコンビニ、ワンエイトマートを右。そこから真っ直ぐ歩いていると前を歩いていたウサギ耳の男性は突如として消えた。消えた場所を見るとそこはマンションの敷地内だった。追いかけるとアリスのように不思議の国に行くのかなと思った。好奇心もあったがマンションへは入らず、突き当たりまで歩き左折した。上新庄駅から徒歩5分、フットサルポコタの看板が見えた。キリンやゴリラの大きな置物が置いてあるメルヘンな施設だったため、フットサル場ってこんな感じなんだと驚いた。フットサルポコタにはコートが4つあり建物の2階コートが集合場所だった。受付で300円払いフットサルシューズを借りた。名札にアマミズと書いたおじさんが笑顔で対応してくださった。施設は見る限り結構昔からあるようだ。

「楽しめるかな」

一回だけ深呼吸し、ゆる子は借りたシューズを手に、力強く階段を上がった。

2階コート前でゆる子は足を止めた。目の前にさっき歩いていたウサギ耳をつけた男性がいたからだ。固まっていると大阪ゆる個サル代表と名乗る方が声をかけてくれた。挨拶を交わし自己紹介をすると、えりりんから聞いていますと更衣室を案内された。着替えながら「あのウサギは何者なの」という想いが頭に張り付いたままだった。

コン、コン、コンとノックの音がした。

「どうぞ」

入ってきたのは同じ位の身長でくりっとした目のかわいい女性だった。表情が少し眠そうに感じた。ゆる子が着替え終わった時、隣で着替えていたその女性を見ると赤のユニフォーム姿になっていた。それは写真のえりりんが着ていたものだった。

「ハッピーナイツ!」

思わず声に出してしまった。

「え?ハピナイ知ってるの?」

ハピナイはサウザンドハッピーナイツの略らしい。

「今日初めてフットサルするんですけど、えりりんっていう紹介してくれた同僚が着ていたんです」

その子はえりりんと聞くとお腹を抱えて笑った。

「えりりん!知ってる!あの子、ドリブルとかシュートが上手すぎて、攻めの鬼って異名があるのよ」

「え?職場でも鬼って呼ばれてるけど!」

初対面の人が仲良くなるのに共通点が重要と言うが、私たちはえりりんが職場でもフットサルでも鬼と呼ばれているのを知り笑った。仲良くなるには十分な理由だった。ハピナイの背番号48。その子はあいちゃんというらしい。えりりんが大阪から離れる直前にチームに入ったためあまりえりりんと接点はなかったようだが鬼伝説はえりりんの分身として皆の心にいるようだ。

「そうだ!あいちゃん、さっき会ったんだけど、ウサギの耳を付けていた人知ってる?」

「知ってるよ!はっしーさんでしょ」

「え」

えりりんは友人を2人呼んだと言っていた。幼馴染のタクヤさんとはっしーさん。

え?あの人がはっしーさん??

 

第3話:「練習」


はっしー「イエス!私がはっしーです」

更衣室を出て早速「はっしーさんですか?」とウサギ耳の男性に直撃した回答は信じ難いが予想通りのものだった。ゆる子は拝啓から始まるえりりんへのクレームを考えていた。
はっしーさんは青い98年サッカー日本代表モデルを着用しており袖で炎の柄が燃えていた。

「変な人だけど変な人じゃないから安心してね(笑)」

あいちゃんはさらっとそう言った。なんというパラドックスだろう。この言葉を人工知能が理解する日は来るのだろうか。驚いてしまったが、あいちゃん曰くはっしーさんは人を笑わせることばかり考えているそう。ウサギの耳とクラシックな代表ユニフォームを見て、他の参加者と思われる方も盛り上がっている。関西人は恐ろしいと思ったが、あいちゃんが「確か北陸地方出身だよ」と教えてくれた。

「あ、ゆる子さん初めまして!タクヤです」

短髪、ギョロっとした目、右手にバナナ。何を隠そうゆる子の体操着は胸の名前が自己主張していて個人情報が開示されている。​パーマンのように胸にプライバシーマークをつけておくべきだったかと思ったが、ともあれ2人と合流できた。挨拶を交わした直後に大阪ゆる個サルの代表が大きい声でウォーミングアップを奨励していた。あいちゃんに声をかけようと探すとベンチで眠っていた。疲れているのだろうか。とにかく皆キャラがしっかりしている。ウサギ耳のはっしーさん、バナナを持ってるタクヤさん、眠り姫のあいちゃん。私は大丈夫なのだろうかと頭の中でハムスターがホイールをぐるぐる回していた。

「ゆる子さん、ストレッチしましょう!」

バナナを食べ終わったタクヤが言った。コートの中に促され目覚めたあいちゃんと共に芝生に座った。あいちゃんに「大丈夫?」と聞くと「隙があれば寝てしまうだけだから大丈夫」と返ってきた。少し安心した。「とにかく寝ている時が幸せなの」という発言は小動物のように愛くるしかった。ふと動物はなぜあんなにかわいい寝顔をするのだろうと思った。人工芝とはいえ地面に座るのは懐かしい感覚で学生時代を思い出す。

「フットサルは足だけでするスポーツじゃないんですよ。例えばボールは足の力だけで蹴ろうとすると股関節なんかを痛めてしまいます。そのためボールは全身で蹴ります!それに周りを見るため迷子になったようにキョロキョロしないといけません。だから全身軽く伸ばしましょう!」

​屈託の無い笑顔でタクヤは言った。タクヤと共に少し走った後、末端から一通りストレッチをした。「今から動かすよと筋肉たちに教えてあげるのが大切です」タクヤは丁寧に教えてくれた。ストレッチが終わったところではっしーさんがこちらへ来た。ウサギの耳はもうついていなかった。

「ゆる子ちゃん、早速だけどボールを蹴ってみよう。基本的な止め方と蹴り方、そして今日最後まで無事に楽しめるようにサポートしてとえりりんとゆる個サルの代表から頼まれてるからね。わからなければ何でも聞いてね

「お願いします!」

「まずパスが来た時のボールの止め方。こうやって踏もうとするとタイミングをミスしたら後ろにいっちゃうよね。だから野球のキャッチャーみたいに爪先を少し上に上げて構えるんだ。止めた後すぐにボールを蹴れるよう、基本膝はほぼ伸ばしたままにしてね」

実際にやってみると片足立ちになるためバランスを崩しそうになる。

「うん。いい感じだね。実際パスは横に逸れてくることもあるから、そういう時は足の内側でもどこでもとにかくボールを止める、又はちょっと動かしたりしてみて、相手に奪われずこうやってボールを自分のものにできればオッケーかな。重要なのは目的と手段を間違えないこと。最初は止めるっていうのが目的だから全部足の裏っていう手段にこだわらないでね」

レクチャーも交えとても丁寧に教えてくれている。最初見かけた時の評価値がマイナスだったため株価は高騰しやすい。このギャップはずるいと感じた。

「次はインサイドキック!フットサルはコートが狭いこともありパスの比重が高いんだ。そのパスを一番正確に蹴れるのがインサイド、つまり足の内側のキックだね。何故足の内側が正確かというとボールに触れる面積が一番広いからだよ」

「蹴り方は見た目こんな感じなんだけど、意識する点をひとつずつ伝えていくね。まず軸足と言ってボールを蹴らない方の足はこのようにボールの真横、拳一個分あけて踏み込みます。そうそう!膝は少し曲げた方が蹴る方の足がスムーズに出せると思うよ。爪先は基本蹴る方向を向けることも忘れずに。続いて蹴り足って言って蹴る方の足編に移るよ。こうやって蛙みたいにガニ股に開きます。基本は真っ直ぐ引いて真っ直ぐ押し出す。蹴るというよりはボールの中心を全身で押し出すようなイメージかな。上半身は正面を向いたまま。そう、いい感じ!」

「いいねー。センスあるよ

タクヤが誉めてくれた。

「...ありがとうございます!褒めて伸ばせってえりりんに言われてませんか?」

「あはは、鋭いねー!けど残念。褒めて伸ばすのは僕たちの流儀だよ」

はっしーは続けた。

「こういう縦回転のグラウンダーって言うんだけど、浮いていないボールを味方に届けてあげるようにね。浮いちゃうと味方がミスしちゃうからね」

「パスはプレゼントだからね。味方をしっかり見て出してあげて!バナナが嫌いな人にバナナを贈ったらダメだからね」

「なんですかそれは(笑)」

タクヤのたとえにあいがつっこんだ。

「味方がほしいところにパスを出すにはしっかり顔を上げてからボールを蹴るのが基本になるんだ。プレゼントを贈る時、普段から相手をしっかり観察するのと同じってことかな」

はっしー「なんかよくわからないけど良いこと言ってる気がする」

右足で蹴る時は左手を使い全身を連動させて蹴るなどと、コツを簡単に教わりやってみて簡単に指摘してもらった後、笛が鳴り集合の時間が来た。一旦お礼を告げ皆でコート中央に集まった。

20名ほどの人数がいた。見た目から20代から40代くらいまでの年齢の方がいるようだった。ゆる子は知識がなかったためわからなかったが、あいちゃんのように自身の所属するチームのユニフォームを着ている人や、フットサルブランド、Jリーグの北海道や大阪のチームユニフォーム、そして何故か埼玉の野球チームのユニフォームを着ている人もいた。本当に色んな人が来るんだなぁと感心した。ファウルに注意、最低限のフットサルルールの遵守、特に女性へ配慮することを管理人が話し、チーム分けの後、早速試合が始まった。

 

第4話:「試合開始」

幸い1試合目は休憩だった。ゆる子ははっしーと同じチームとなり、タクヤとあいが試合しているのを観ることとなった。まずはプレーしているところを見て自分がプレーするイメージをしようと思った。

「タクヤは上手いからね。参考になるよ」

はっしーが言った。試合が始まるとタクヤはとても機敏な動きだった。「ディフェンスって言うんだけど2人対1人なんかの数的不利、つまり人数が少ない場面でも彼はばんばん止めてしまうんだ」何が上手くて何が下手なのか、ゆる子には細かくわからなかったが、タクヤの動きは活き活きして正確だと思えた。「あれで本職じゃないんだよなぁ」はっしーが呟いた。本職の意味がゆる子にはわからなかった。

驚いたのはあいが何名かの男性より上手いと感じたことだった。あいは眠そうな表情から一転して真剣な表情だった。ダブルタッチで男性をかわし歓声があがった。「確か小さい頃から親にフットサルを教わってたって言ってたよ」とはっしーが言った。初心者の私で大丈夫なのだろうかと不安が大きくなったところで試合が終了した。

試合が始まるとさっそくボールが来た。教わった通り止めることができたが、ゆる子は顔を上げれなかった。相手ディフェンスがガツガツボールを取りにきているわけではないのに見えないプレッシャーを感じた。「早くパスしろ」「足を引っ張るな」と思われているのではないかと感じた。ボールという時限爆弾に怯え誰かに渡し続け、1試合目が終わった。

肩に力が入っておりあまり走っていないのに息が切れていた。水を飲んでいると笑顔のはっしーが近づいてきた。「緊張してるねー。でも最初にしては上出来だよ」何もできなかったのに褒めてくれているんだと思った。「ボールを止めることはできていたから、次は顔をあげてみよう!大丈夫!僕の声を聞いてみて」頭が真っ白のまま休憩が終わった。

2試合目。最初のパスをなんとか止めた。「ゆる子ちゃん、顔をあげて」はっしーの声が聞こえた。さっきは鳴っている音楽さえも聞こえていなかったが今回は聞こえた。大袈裟だが闇の中に手を差し伸べてくれてるように聞こえた。顔をあげてみた。すると芝生とボールしか見えていない世界が明るくなった。はっしーさんも、他の参加者も皆笑顔だった。「パスしてみて!失敗していいから!」他の参加者も声を出してくれていた。なんだか今まさに初めて立とうとしている赤ん坊のようだった。パスは味方に繋がったり相手に取られたりした。もっと顔をあげて回りを見ないとと感じた。

相変わらずぎこちなかったが、試合を重ねるごとにパスの成功率が上がった。「シュートもパスをゴールにするようなイメージで良いと思うよ」休憩中にタクヤもアドバイスをくれた。「ゆる子ちゃん上手いね!」とあいも優しく褒めてくれた。はっしーはトイレに行っているようだった。

ゆる子「はっしーさんとか他の参加者がすごいあわせてくれてて...」

タクヤ「そうだね。それがここの個サルだからね。皆でフットサルをして楽しむところだから、沢山失敗して楽しめばいいからね」

少しずつだが楽しめる余裕が出てきた。はっしーがボールに載って転んだりして試合中の笑顔も増えてきた。

ゆる子「はっしーさんて笑いを忘れないんですね」

タクヤ「だね。けどあの人レベル9だから本当はすごい上手いんだよ」

ゆる子「レベル9?」

タクヤ「これ」

タクヤは手につけているミサンガのようなものを見せた。よく見るとあいも皆つけていた。

名前はFシステム(※フィクション)。このブレスレットのようなものを装着することでフットサルの試合中の様々なデータがスマホのアプリに送信される仕組みで走行距離やパス成功率も確認することができるようだ。つけていない選手がいると抽出できるデータも変わるため、フットサル経験者は殆どつけているらしい。そして全体的な速さなどから強度を割り出し、高い強度で良いプレーを続けることでレベルが上がる。レベルは1から10ありはっしーはレベル9、タクヤは7、あいは4だとわかった。

 

タクヤ「はっしーさんはすごいよね。ああ見えて自営業でバーを経営してるんだよ。ちなみにえりりんはレベル6だったかな」

ゆる子「皆さんすごいんですね

はっしー「ああ見えてってなんだ」

帰ってきたはっしーが背中にいた。

タクヤ「そういえばえりりんが初めてフットサルをした時、自陣のゴールにシュートを決めていたよ!しかも豪快に!」

和やかな雰囲気の中、昔の話が出たら見せる画像を思い出した。タクヤに見せた画像には「それ以上喋ったら殺す」と書いてあった。「えりりん怖えー!」と心で皆が思った。

 

第5話:「初ゴール」

顔があがると、「ここにパスがほしい」等のハンドサインが見えることがあった。まだまだ下ばかり見てしまうし上手くいかないがそういった他の人の意図を感じた時に嬉しく感じた。例えば埼玉リオンズの野球チームのユニフォームを着ていた人も声を出してくれていたが、それだけでなく、声がない意図を感じれることがおもしろく「声に出さずとも会話することができるんだ」と感じた。実際、一緒にボールを追いかけただけで休憩中に話しかけられても違和感がなかった。

「今日の目標は1ゴール。落ち着いてゴールを狙ってね」

タクヤがそう言ってくれた。ゆる子には参加者の皆が配慮しお膳立てをしてくれているように思えたがなかなかボールはゴールに吸い込まれなかった。

そして最後の試合。

「さぁ最後も楽しもう!」はっしーが言った。

ゆる子はゴールを決めるため相手陣地の深くにポジショニングし、パスを受けゆっくりとターンし教えてもらったインサイドでシュートをしたがゴールからそれてしまった。最後の試合でも既に3本外した。決めれそうで決まらない。

「ラストワンプレーです」と代表者が叫んだ。ボールが外に出るか30秒でゲームが終わってしまう。味方のはっしーがボールを持った。はっしーは相手ディフェンスの腰の高さ程度浮かしてゆる子へパスを出した。はっしーがイメージしていたのは、浮き球を怖がりながらも適当に蹴って入るという絵だった。強いパスではないため万が一ぶつかっても痛くなく、スーパープレーが期待できると思った。

だがゆる子の発想はその斜め上を攻めた。TVでサッカーを観たことのあるゆる子はヘディングを知っていた。「頭でシュートしてもゴールだ」と感じたゆる子はボールへ向かってジャンプした。それはヘディングというより体ごとヘディングする、ダイビングヘッドと呼ばれるものだった。参加者の全員が「えー!」等と驚きの声をあげた。目は瞑っていた。フォームも変だったが熱意はあった。

勢いよくボールに頭から向かっていったゆる子は体ごとゴールへ吸い込まれていった。ボールは静かにサイドラインを越えた。ゆる子の頭にボールは当たらなかった。ゴールの中にはジャングルにしかけられた罠にかかったようなゆる子の姿だけが残った。

一瞬の静寂の後、「えー!」という声が再度響いた。目を開けるとゆる子はゴールの中だった。そして恥ずかしさがクラウチングスタートから100m9秒58の速さでやってきた。笑いと賞賛の声が会場に入り混じっている。待てよ。体操服で参加し自らゴールする。ゆる子ははっしーさんよりキャラが濃いと感じた。「やってしまった」という言葉が2バスのドラムのようにドコドコドコドコと頭の中で鳴り響いた。「皆に笑いを提供できたしいいんだ。うん、いいんだこれで」ゆる子は砂浜に打ち上げられたような姿でそう思った。

「怪我はない?」

ゴールの中から救助された後、あいが聞いてくれた。

「体は大丈夫」

「え?」

「いや、大丈夫、です」

初ゴールは決めることができなかった。それどころかキャラが濃い人たちの中で笑いをとってしまった。「ゆる子ちゃんセンスあるねー!」というタクヤの言葉が褒めているのか皮肉なのかわからなかった。「おもしろかったけどあの熱意は素晴らしいよ。褒めてるんだよ」苦笑いをしていた私の意図を汲み取りはっしーがつけ加えてくれた。

着替えを済ませレンタルシューズを返却しお礼を告げゆる子は岐路についた。初フットサルは自分のプレーも含め予想外のものばかりだった。そして今日知り合った人は良い人ばかりだった。名前の知らない人も配慮してくれていたのがわかった。体を動かしたのが久しぶりだったため疲れたが、旅行の後のような心地良い疲れだった。

「また参加したいな」

素直にそう思った。

その日の夜、タクヤは電話をしていた。

タクヤ「なんだよあの画像!」

「おもしろかったでしょ?」相手はえりりんだった。

えりりん「画像見たってことは自殺点した話したでしょ」

タクヤ「ゆる子ちゃんの緊張解くためだよ!」

えりりん「言い訳...」

タクヤ「そうそう、ゆる子ちゃんがんばってたよ」

えりりん「がんばり屋さんだからねー。サポートありがとう!」

タクヤ「ダイビングヘッドしてたよ

えりりん「え?初心者じゃなかったっけ?」

タクヤ「そうそう、けどそのままボールに当たらず自らゴールに入ってたけどね」

えりりん「か、かわいすぎる!」

タクヤ「ちょっとあの人と被った」

えりりん「うん。そうだね...。」

誰よりもフットサルに熱かった憧れの選手を思い出し懐かしくも切なく寂しい気持ちになった。そう、怪物とまで呼ばれた男が当時大阪にいた。気付くと桜は散り緑色へ変わっていた。

 

第6話:「王子」

アマミズ「ああ、そのチームは伝説のチームです」

​フットサルポコタにてレンタルシューズを借りに来て、施設に掲示してある歴代大会優勝チームの写真を見ていたゆる子に店員はそう言った。ゆる子は今回大阪ゆる個サルへ2回目の参加となる。

ゆる子「強いチームだったんですか?」

​アマミズ「それはもう。大阪の7大大会を全て制覇した唯一のチームです」

チーム名はLike A Ball(ライクアボール)と書いてあった。

アマミズ「大阪でフットサルするなら知らない人はいないほどです。中央の寝癖のついた人がハルっていう選手なんですがもう特に上手くて上手くてすごいですよ」

ゆる子「へー。これ寝癖なんですね。見てみたいなー」

髪の左側が鉄腕アトムのようになっている。

アマミズ「大阪ゆる個サルで会えると良いですね。そういえばさっき見かけたのですが今日は王子さんも来てるんじゃないですかね」

ゆる子「王子さん?」

アマミズ「レベル10の凄腕の選手です。彼のプレーは優雅ですよ」

ゆる子「わー、楽しみです。参考にしよっと」

靴を借りたゆる子はクラブハウスを出てコートへ向かった。

アマミズ「ライクアボールは強かったなぁ。強いだけじゃなかったなぁ...」

アマミズは一人呟いた。

ゆる子がノックし更衣室のドアを開けるとそこには口を開けて眠るあいがいた。

ゆる子「あ、あいちゃん!また寝てる!」

あい「おー!ゆるちゃんおはよう!ゆる子は寝て待てと言うではないか」

ゆる子「そうだっけ!?」

今回タクヤが来れなかったため、あいとはっしーと参加することとなった。そして個サルが終わった後はゆる子のフットサルウェアーとシューズ、そしてFシステムを買いに行く約束をしている。

一緒に更衣室を出るとはっしーが誰かと話していた。鮮やかな金髪で左目側の前髪が少し長い男性だ。

「Fシステムのスコア機能はいいよね。楽譜や棋譜のように選手の意図や感情が色褪せずに残っている。最近ライクアボールがエス・オー・エルを倒した時のスコアを見て蹴りたくなって来てしまったんだ」

はっしー「ライクアボール、そしてハルさんの名を大阪に知らしめた試合だったな」

はっしーがこちらに気付いた。

はっしー「あ、ゆるちゃんおはよう!」

今日のはっしーは胸に日本の国旗が描かれている​​87年サッカー日本代表モデルを着ていた。隣にいる金髪の人が王子というニックネームの人だと紹介してもらった。王子は青い横浜のユニフォームを着ていた。胸には星が3つ並んでいる。

はっしー「王子のプレー上手いよー

王子「やめてよ。個サルだしゆっくり蹴るよ」

その言葉通り王子はゆっくりプレーしていた。だがリフティングで相手をかわすなどプレーがいちいち華麗だった。「すごくシンプルに、簡単そうに大技をやってのける。これがレベル10の選手だよ」とはっしーが言った。闘牛や新体操のように相手をかわす姿は最早違うスポーツのようだった。ゆる子は上手くなりたいと思った。そういえばえりりんはどんなプレーをするのだろうか。えりりんに会った時に「上手い」と言わせたい。

ゆる子は休憩中ずっと真剣な眼差しで王子のプレーを追っていた。

 

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